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絶縁型DCDCコンバータを実験してみた

単電源入力, 正負両電源出力のDCDCコンバータを自作しようかと考えて
入力電圧: 5V(USB) 出力電圧: +15V, -15V のDCDCコンバータを実験してみた。
このDCDCコンバータのトランス設計は 電源設計の技術情報サイトのTechWeb1の絶縁型フライバックコンバータ回路設計2を参考にしました。

絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(数値算出)

リンクの記事を参考にして設計を始める。

実験回路図

使う部品の少ない自励型DCDCコンバータを適当に設計してみた。 回路図

トランス設計(数値算出)

仕様

  • 入力電圧 $V_{in} : 4.5 \text{~} 5.0 \mathrm{V}$
  • 出力電圧 $V_{out} : \pm 15 \mathrm{V}$
  • 出力電流 $I_{out} : 300~\mathrm{mA}$
  • 出力電力 $P_o : 30\mathrm{V} \times 0.3\mathrm{A} = 9~\mathrm{W}$
  • 制御電圧 $V_d : 10~\mathrm{V}$
  • ダイオードの順方向電圧 $V_F : 1.0~\mathrm{V}$
  • 周波数 $f_{sw}max : 40~\mathrm{kHz}$

絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(数値算出) | 電源設計の技術情報サイトのTechWeb
ここを参考にしてトランス設計を進めてみる。

フライバック電圧VORの設定

正負電圧出力であることを考えて $V_O$ を

$$ \begin{aligned} V_o &= V_{out} + V_F \\ &= (15 + 1) + (-15 - 1) \\ &= 32~\mathrm{V} \end{aligned} $$

として

今回は $VOR = 4$ と決めると巻き数比(Np/Ns)と通流率Dutyは

$$ \begin{aligned} \frac{N_p}{N_s} &= \frac{VOR}{V_o} \\ &= \frac{4}{32} \\ &= 0.125 \\ \end{aligned} $$

$$ \begin{aligned} Duty(max) &= \frac{VOR}{V_{in}(min) + VOR} \\ &= \frac{4}{4.5+4} \\ &= 0.47 \end{aligned} $$

となる。

二次側巻線インダクタンスLs、二次側の最大電流Ispkの算出

最大負荷電流 $I_{o}max$ は

$$ \begin{aligned} I_{o}max &= 1.2 \times I_{out} \\ &= 1.2 \times 0.3 \\ &= 0.36 ~\mathrm{A} \end{aligned} $$

$$ \begin{aligned} L_s &< \frac{ (V_{out} + V_F) \times (1- Duty)^2 }{2 \times I_{o}max \times f_{sw}max} \\ &= \frac{32 \times (1 - 0.47)^2}{ 2 \times 0.36 \times 40 \times 10^3} \\ &= 312 ~\mathrm{\mu H} \end{aligned} $$

$$ \begin{aligned} I_{s}pk &= \frac{ 2 \times I_{o}max }{ 1 - Duty(max) } \\ &= \frac{ 2 \times 0.36 }{ 1 - 0.47 } \\ &= 1.36 ~\mathrm{A} \end{aligned} $$

一次側巻線インダクタンスLp、一次側の最大電流Ippkの算出

$$ \begin{aligned} L_p &= L_s \times \left( \frac{N_p}{N_s} \right)^2 \\ &= 312 ~\mathrm{\mu H} \times 0.125^2 \\ &= 4.88 ~\mathrm{\mu H} \end{aligned} $$

$$ \begin{aligned} I_{p}pk &= I_{s}pk \times \frac{N_s}{N_p} \\ &= 1.36 \times \frac{1}{0.125} \\ &= 10.88 ~\mathrm{A} \end{aligned} $$

トランスサイズの決定

出力電力 $P_o$ は気にせずに今回はTDK PC44PQ20/16コアを使うことにする。

TDKプロダクトセンター より以下の資料を入手する。

PC44材の資料が見つからないのでPC47材の資料を参考にする。

page5 出典: 「Mn-Zn系フェライト材質特性」 データーシート

PC47材 性能諸元

  • 飽和磁束密度 $B_{sat} = 420~\textrm{mT} @ 100{^\circ\mathrm{C}}$

page4 出典: 「Mn-Zn系 スイッチング電源用フェライトコア PQシリーズ」データーシート

PC47PQ20/16Z 性能諸元

  • 実効断面積 $A_e = 62 ~\mathrm{mm^2}$
  • AL値(ギャップ付) $AL_\text{value} = 100 ~\mathrm{nH / N^2}$

一次側巻線数Npの算出

資料にあるPC47材と使うPC44材との相違と余裕を見込んで飽和磁束密度$B_{sat} = 0.35~\mathrm{T}$とする。

$$ \begin{aligned} N_p &> \frac{V_{in} \times T_{on}}{A_e \times B_{sat}} = \frac{L_p \times I_{p}pk}{A_e \times B_{sat}} \\ &= \frac{4.88 \mathrm{\mu H} \times 10.88 \mathrm{A}}{64 \mathrm{mm^2} \times 0.35 \mathrm{T}} \\ &= \frac{4.88 \times \cancel{10^{-6}} \times 10.88}{64 \times \cancel{10^{-6}} \times 0.35} \\ &= \frac{4.88 \times 10.88}{64 \times 0.35} \\ &= 2.37 ~\mathrm{turns} \\ &\Rightarrow {N_p\text{は3ターン以上}} \end{aligned} $$

$AL_\text{value} = 100~\mathrm{nH / turns^2}$ とすると

$$ \begin{aligned} N_p &= \sqrt{\frac{L_p}{AL_\text{value}}} \\ &= \sqrt{\frac{4.88 ~\mathrm{\mu H}}{100 ~\mathrm{nH / turns^2}}} \\ &= \sqrt{\frac{4.88 ~\mathrm{\mu H}}{0.1 ~\mathrm{\mu H / turns^2}}} \\ &= 6.98 ~\mathrm{turns} \\ &\Rightarrow {N_p\text{は7ターン}} \end{aligned} $$

$$ \begin{aligned} L_p &= 4.88 ~ \mathrm{\mu H} = 4880 ~ \mathrm{nH}\ N_p &= 7 ~ \mathrm{turns} \ AL_\text{value} &= 4880 / 7^2 = 99.59 ~ \mathrm{nH / turns^2} \ NI &= N_p \times I_ppk \ &= 7~\mathrm{turns} \times 10.88~\mathrm{A} \ &= 76.2~\mathrm{A \cdot turns} \end{aligned} $$

NI-ALvalue01

余裕。あるじゃないですか。


もうちょっと攻めた設計で $AL_\text{value} = 300~\mathrm{nH / turns^2}$ とすると

$$ \begin{aligned} N_p &= \sqrt{\frac{L_p}{AL_\text{value}}} \\ &= \sqrt{\frac{4.88 ~\mathrm{\mu H}}{0.3 ~\mathrm{\mu H / turns^2}}} \\ &= 4.03 ~\mathrm{turns} \\ &\Rightarrow {N_p\text{は4ターン}} \end{aligned} $$

$$ \begin{aligned} L_p &= 4.88 ~ \mathrm{\mu H} = 4880 ~ \mathrm{nH}\ N_p &= 4 ~ \mathrm{turns} \ AL_\text{value} &= 4880 / 4^2 = 305 ~ \mathrm{nH / turns^2} \ NI &= N_p \times I_ppk \ &= 4 ~\mathrm{turns} \times 10.88~\mathrm{A} \ &= 43.52 ~\mathrm{A \cdot turns} \end{aligned} $$

NI-ALvalue02

もっと頑張れそうだが、PC44材の代わりにPC47材の資料を見ているのでもうこれでいいことにする。

二次側巻線数Nsの算出

最初に決めた値である $\frac{N_p}{N_s} = 0.125$ より
$$ \begin{aligned} N_s &= \frac{N_p}{0.125} \\ &= \frac{4}{0.125} \\ &= 32 ~\mathrm{turns} \\ \end{aligned} $$

$N_s$ は正電源16ターン, 負電源16ターン

VCC巻線数Ndの算出

これは大雑把に $V_{CC} + V_{FVCC} = 10 ~\mathrm{V}$ として

$$ \begin{aligned} N_d &= N_s \times \frac{V_{CC} + V_{FVCC}}{V_{out} + V_F} \\ &= 32 \times \frac{10}{32} \\ &= 10 ~\mathrm{turns} \end{aligned} $$

ギャップ長の算出

$AL_\text{value} = 305 ~ \mathrm{nH / turns^2}$ なので
グラフの300(nH/N2)とエアギャップ長(Typ.)の交差点から下に線を引いて

ALvalue-gap01

ギャップ長 $\ell_g = 0.2 \text{~} 0.3 ~\textrm{mm} ~ \text{(Center pole gap)}$

計算で求めると(真空の透磁率$\mu_0 = 4 \pi \times 10^{-7}$)

$$ \begin{aligned} \ell_g &= \frac{\mu_0 \times A_e \times N_p ~ ^2}{L} \\ &= \frac{4 \pi \times 10^{-7} \times 62 \times 10^{-6} \times 4^2}{4.88 \times 10^{-6}} \\ &= \frac{4 \pi \times 62 \times 4^2}{4.88} \times \frac{10^{-7} \times 10^{-6}}{10^{-6}} \\ &= \frac{\cancel{4} \pi \times 62 \times 4^2}{\cancel{4.88}} \times \frac{10^{-7} \times \cancel{10^{-6}}}{\cancel{10^{-6}}} \\ &= \frac{\pi \times 62 \times 4 \times 4}{1.22} \times 10^{-7} \\ &= \frac{992}{1.22} \pi \times 10^{-4} \times 10^{-3}\\ &= \frac{992}{1.22} \pi \times \frac{1}{10000} \times 10^{-3}\\ &= \frac{992}{12200} \pi \times 10^{-3}\\ &= 0.255 \times 10^{-3} ~\mathrm{m} \\ &= 0.26 ~\mathrm{mm} ~ \text{(Center pole gap)} \end{aligned} $$

トランス設計(構造設計)

続いて 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その1 | 電源設計の技術情報サイトのTechWeb にそって進める。

設計値の整理

  • 一次側巻線数 $N_p = 4 ~\mathrm{turns}$
  • 二次側巻線数 $N_s = 16 ~\mathrm{turns}, 16 ~\mathrm{turns}$
  • VCC巻線数 $N_d = 10 ~\mathrm{turns}$
  • トランスコア PC44PQ20/16
  • ギャップ長 $\ell_g = 0.26 ~\mathrm{mm}$ (センターギャップ)
  • ギャップ長 $\ell_g = 0.13 ~\mathrm{mm}$ (スペーサーギャップ)

ボビンの選定

コアと同じく特に気にせずにCPV-PQ20/16を使うことにする。

CPV-PQ2016 出典: CPV-PQ20/16-1S-14P-Z Drawing

有効巻枠の確認

  • 巻き幅 7.82mm
  • 巻き高さ (17.22mm - 10.80mm) / 2 = 3.21mm

巻線構成決定

「シンプルな構成」を選ぶ。

沿面距離とバリアテープ

5V, 15V, 10Vと電圧が低いので省略する。

続いて 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その2 | 電源設計の技術情報サイトのTechWeb にそって進める。

線材の選定

計算せず適当に

  • 一次側 $N_p$ 巻き線は 2UEW φ0.26 / 7並列
  • 二次側 $N_s$ 巻き線は 2UEW φ0.32
  • VCC $N_d$ 巻き線は 2UEW φ0.32

と決める。

結線図、層構成、巻線仕様

適当に内側から
Np(4巻 / 7並列) | Ns(16巻) | Ns(16巻) | Nd(10巻)
とする。

トランス仕様決定

CoilTurnsWire
Np42UEW 0.26 × 7
Ns1162UEW 0.32
Ns2162UEW 0.32
Nd102UEW 0.32

トランス製作

トランスコアとボビン 組んでみる 2D=16.2mmだから8.10mm(実測値) コアにポリイミドテープ1枚貼って8.25mm

フェライトコアにポリイミドテープ1枚貼って8.25mm - 8.10mm = 0.15mm (スペーサーギャップ)

巻き線を始める 巻き線終わり テープでコアを固定 ピンにはんだ付け 完成

ブレッドボードに回路を作る

ブレッドボード上の実験回路

ブレッドボード上の実験回路

回路に電源(5V)を接続する

  • ch1(黄色): MOSFETのゲート電圧
  • ch2(緑色): $40 ~\mathrm{m \Omega}$ 抵抗間の電圧

scope

scope

scope

自励型DCDCコンバータの発振周波数は61.767kHz, 二次側に正負15V出力を確認した。

$40 ~\mathrm{m \Omega}$ 抵抗に $1.81 ~\mathrm{V}$ だから電流 $I$ は

$$ \begin{aligned} I &= \frac{V}{R} \\ &= \frac{1810 ~\mathrm{mV}}{40 ~\mathrm{m\Omega}} \\ &= 45.25 ~\mathrm{A} \end{aligned} $$

ピーク電流だけどなかなか流れているな。

2SK3510
スイッチングデバイスのデーターシート3によると
2SK3510-datasheets
これくらいは大丈夫そう。

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